ポリアミンとは

細胞が新しく生まれ変わるのを助け、
腸の細胞を元気にしてくれる生理活性物質、
ポリアミンについてお届けします。

ポリアミンって何?

Q.ポリアミンって何?

ポリアミンとは、全ての細胞内で作られる物質で、細胞の増殖に深く関連しており、細胞分裂がさかんな組織では高濃度存在します。

学術的には、「分子中にアミンを複数含む、低分子の塩基性物質」を総称してポリアミンと言います。生体内には、主として2個のアミンを含む「プトレッシン」、3個の「スペルミジン」、4個の「スペルミン」が存在します。

たとえば、細胞分裂が盛んな赤ちゃんが生まれてしばらくの間飲む母乳は、分娩後数か月経った母乳と比較して、ポリアミンがたくさん含まれています。これは、未熟な赤ちゃんの腸を速く成熟させ、腸の消化吸収機能やバリア機能を高めるためだと考えられています。一方で、このポリアミンを作る能力は、年を取るにつれ減少します。

私たちは、老化はポリアミンを自分の細胞で作れなくなることから始まり、ポリアミンが健康を維持するのに必須の物質であると考え、研究を進めています。特に、病気の発信源である大腸の機能を維持する作用を重要視しています。

※ポリアミンの語源

ポリ(poly)とは、「多数の…」「複」の意味で、複数のアミン(-NH-)を含む化合物の総称です。ちなみに、最も活性の強いポリアミンはスペルミン(Spermine)といいますが、これは精液で最初に発見されました。そこで、精液Sperm+アミンamineを合わせてSpermineと名付けられたのです。

Q.3種類のポリアミンについて教えて!

ポリアミンには、主として「プトレッシン」、「スペルミジン」、「スペルミン」の3種類が存在します。

これらは、プトレッシン→スペルミジン→スペルミンの順に生体内で合成され、また逆の経路で分解されます。一方、活性の強さはその逆で、スペルミン→スペルミジン→プトレッシンの順番になります。

生命活動には、「余計なことはしない」という原則がありますので、活性の低い順に合成し、いざという時にのみエネルギーを使って活性の強いものを生み出すのでしょう。

不思議なことに、ヒトの腸管ではプトレッシンの濃度が最も高く、ついでスペルミジンで、スペルミンは検出されない場合もあります。プトレッシンは腸管上皮細胞に吸収され、必要な時に細胞内でスペルミジンやスペルミンに変換されているものと推測されています。

Q.腸内細菌がポリアミンを作るのですか?

はい。私たちが、腸内細菌のいないマウス(無菌マウス)と、通常のマウスの大腸内容物におけるポリアミンの濃度を比較してみたところ、通常のマウスの方がポリアミンの濃度が圧倒的に高いことがわかりました。これは、腸内細菌がポリアミンを作っていることを証明しています。
しかしながら、腸内ポリアミン濃度は個体差が非常に大きいです。これは腸内菌叢の差に依存しています。ポリアミンを作り腸内環境中に放出する菌もいれば、作っても自分の体内で使用する菌、さらに、環境中のポリアミンを吸収する菌もいます。どのような菌が生息しているかで、腸内ポリアミン濃度は大きく変わります。
プロバイオティクスLKM512を摂取すると腸内ポリアミン濃度が高まることは2001年に発表していますが、最新の研究で、そのメカニズムを遺伝子・分子レベルで解明しました。
簡単に述べますと、LKM512の作る酸(酢酸・乳酸)がきっかけとなり、ハイブリッド・ポリアミン生合成機構(一部の腸内細菌の酸から身を守る防御機構と、別のグループの腸内細菌がその副産物を利用してエネルギーを産生する機構が組み合わさった生合成経路)が活性化し、ポリアミンが作られることがわかったのです。しかも、普遍的に存在している菌が関与していることから、ほとんどのヒトで、LKM512摂取でポリアミン濃度が増えるのです。
この内容は、アメリカ科学ジャーナル『 Science Advances 』に掲載された論文の解説を参考にして下さい。

Q.ポリアミンはどのように大腸に働きかけるの?

腸管には、栄養や水分を吸収する役割と同時に、腸管内に現れる炎症要因物質やアレルゲンを体内に侵入させない役割があり、これをバリア機能といいます。

腸管は一層の上皮細胞で、細胞どうしが密着して成り立っていますが、これに関わる種々のタンパク質合成が、ポリアミンにより活性化されます。

また、この上皮細胞は粘液を分泌して粘液層を形成し、さらに抗体(sIgA)を出すことで有害物質の侵入をガードしているのですが、この働きをポリアミンが促進するのです。

これらの結果、大腸のバリア機能が高まって、炎症物質やアレルゲンが生体内に侵入するのを物理的に防ぎ、炎症やアレルギー予防に役立っていると考えられます。

Q.ポリアミンにはDNAを安定させる力があるって本当?

ポリアミンは、成長が盛んな乳児期の細胞や精液中で高濃度に含まれています。細胞が増殖する時にたくさん作られますが、それはポリアミンが細胞分裂時に必要だからです。

細胞内に存在するポリアミンの大部分は、核酸(DNA、RNA)と結合しています。つまり、生命体として最も重要な設計図である遺伝子が突然変異を起こしてしまわないように、くっついて安定させるという大事な役割を果たしているのです。

Q.ポリアミンには炎症を押さえる働きがあるの?

はい。ポリアミンの重要な役割のひとつに、抗炎症作用があります。

特に小さな炎症が継続的に生じる慢性炎症は、老化の主要因と考えられています。本来、炎症反応は生体を守るために起こるものですが、老化によって暴走することが多くなります。

自然免疫系(抗原抗体反応ではなく、体内に侵入して来る異物なら何でも食べてしまう免疫系)により、炎症性サイトカインが分泌されることで炎症が起こりますが、ポリアミンはこの過剰な分泌を抑制することが知られています。

Q.ポリアミンはサプリメントで摂取できますか?

ポリアミンをそのままサプリメントで摂取することは、その独特の臭気などの影響で、ほとんど行われていません。しかし、大豆やある種のチーズ、白子、オレンジなどにたくさん含まれているので、食品からポリアミンを摂取することができます。

ちなみに、自治医科大•早田邦康先生のグループから、マウスの実験で、大豆の2倍程度のポリアミンを与えたところ、毛並みが良くなり寿命が伸びたと報告されています。

しかし、口から摂取したポリアミンは、ほとんどが小腸で吸収されるため大腸に届かず、病気の発信源である大腸の老化を抑えることができません。また、一過性であり、吸収されてしまえばそれで終わりです。

そこで、私たちが考えたのは、ポリアミンを腸内細菌に作らせる方法です。マウスにLKM512を投与し、腸管内でポリアミンを作らせてみたところ、口からポリアミンを摂取させたマウスに比べて、大腸の老化が抑えられました。

ポリアミンを腸内細菌に作らせるということは、濃度が高くないにしても、常に作り続けることができるわけです。仮に、腸内の10倍量のポリアミンを含む食品を食べたとしましょう。1時間後には腸から吸収され、血流に入ったものも、どこかの細胞に吸収されてしまいます。一方、大腸内では、1時間あたり10分の1の量であったとしても常に作られています。10時間後には食べた量を超え、24時間で、その2倍以上のポリアミンを供給できるようになります。

また、ポリアミンを多く含む食品は、白子、魚卵、チーズなど、どうしてもカロリーが高いものやプリン体を多く含むものが多いのですが、腸管内でポリアミンを作らせれば、余分なカロリーをとる必要もなくなります。

Q.ポリアミンは、生命活動になくてはならないものなのですね?

そのとおりです。ポリアミンにはたくさんの機能がありますが、すべて生命活動に関わっています。

また、全生物が共通して、生体内にポリアミンを持っています。全生物というのは、原核細胞(核を持たない細菌など)、真核細胞(酵母など核を持つ微生物)などの微生物から、魚類、両生類、鳥類、哺乳類、さらには植物も含みます。

すべての生物が持っているものの代表として、核酸(DNA, RNA)がありますが、それに匹敵する重要性なのではないでしょうか。重要といわれている腸内細菌の産生物のひとつである酪酸にしても、すべての植物や細菌の細胞中に含まれているわけではありません。

全生物の生命活動にとって必須であるポリアミンは、とても重要な物質なのです。

Q.ポリアミンが寿命をのばすのですか?

私たちは、腸内細菌が作るポリアミンの重要性を2001年に初めて発表しました。そのときには話題になりませんでしたが、2009年に一転しました。
『Nature Cell Biology』という著名なジャーナルに、ポリアミンが寿命をのばすことに関連しているという論文が掲載されたからです。

この論文では、酵母、線虫、ショウジョウバエ、ヒトの免疫細胞にスペルミジンを投与したところ、寿命がのびたことが発表されました。

また、大腸内のポリアミン濃度が高まると寿命がのびるという仮説は、今後も多くの段階を得て証明しなければならないものですが、この内容は『Medical Hypotheses』というジャーナルで発表しており、すでに認められています。

2011年、この仮説がほぼ正しいことが証明されました。マウスにビフィズス菌LKM512を投与して、大腸内ポリアミン濃度を上げることで、寿命が伸びたことが確認されたのです。この内容は、アメリカ科学ジャーナル『PLoS One』に掲載されましたので、その解説を参考にして下さい。